- チューリング賞受賞者ヤン・ルカン氏が共同創業したAMI Labsが、企業価値35億ドルで10億3000万ドルを調達した
- LLMのスケーリング則に公然と懐疑的なルカン氏が2022年に提唱したJEPAアーキテクチャを研究の基盤に据える
- NVIDIA・トヨタ・ベンチャーズ・Temasekなど産業大手が出資し、最初の商業パートナーには医療スタートアップのNablaを指名
LLMの限界に挑む「世界モデル」とは
チューリング賞受賞者でMetaのチーフAIサイエンティストを務めたヤン・ルカン氏が共同創業したAMI Labsが、プレマネーバリュエーション35億ドルで10億3000万ドルの資金調達を完了した。2026年3月9日にTechCrunchが報じた。
AMI Labsが目指すのは「世界モデル」だ。言語データだけを学習するLLM(大規模言語モデル)とは異なり、現実世界の物理的な仕組みを理解・予測するAIシステムを構築しようとしている。CEO・アレクサンドル・ルブラン氏は「6か月後には、あらゆる企業が資金調達のために自社を『世界モデル』と名乗るようになる」と予測する。LLMの先を見据えた新しいアプローチを巡る競争が本格化しつつある。
研究の中核をなすのが、ルカン氏が2022年に提唱したJEPA(Joint Embedding Predictive Architecture)だ。スケーリング則(モデルの規模拡大に比例して性能が向上するという経験則)への公然たる懐疑論で知られるルカン氏が設計したこのアーキテクチャは、テキストではなく感覚的な知覚を表現する埋め込み空間で世界を予測することを狙っている。
豪華な経営陣と多彩な投資家
ルカン氏は会長として参画し、MetaのAI研究機関FAIRにも籍を置いたルブラン氏がCEOを務める。COOにはMetaの欧州担当バイスプレジデントのローラン・ソリー氏、最高科学責任者にはシャイニン・シェ氏が就いた。最高研究・イノベーション責任者にはパスカル・フォン氏、世界モデル担当バイスプレジデントにはモントリオールを拠点とするマイケル・ラバット氏が名を連ねる。
今回のラウンドはCathay Innovation、Greycroft、Hiro Capital、HV Capital、Bezos Expeditionsが共同リードした。産業界からはNVIDIA・サムスン・トヨタ・ベンチャーズ・Temasekなどが出資し、個人投資家としてティム・バーナーズ=リー氏、マーク・キューバン氏、エリック・シュミット氏らも参加している。フランス国内ではPublicis GroupeやBpifrance Digital Ventureも加わった。
商業化への道筋とオープン研究
ルブラン氏は前職の医療AIスタートアップ・NablaのCEOとして、LLMが医療現場で引き起こす幻覚リスクを痛感してきた。そのためNablaがAMI Labsの最初の商業パートナーに指名されたが、「世界モデルが理論から商業応用に移行するまでには数年かかる」とルブラン氏は明言する。大型投資が相次ぐAI業界ではOpenAIが1100億ドルを調達するなど前例のない規模の資金調達が続くが、AMI Labsは「年間経常収益(ARR)1000万ドルを12か月で達成するような典型的AIスタートアップではない」と自ら位置付ける。
拠点はパリ(本社)、ニューヨーク(ルカン氏がNYUで教鞭)、モントリオール、シンガポールの4都市で、アジアでの人材採用と将来の顧客開拓を視野に入れている。論文の継続的な発表とコードのオープンソース公開も約束しており、「オープンな研究は進化を加速させる」とルブラン氏は強調した。

